#55 虹のかけら(中編)
(前回の続き)
「いいよー。もうひでともくんの好きにして。」
いっちーは僕の頼みを快諾してくれた。ベッドの上でも使えそうなフレーズだなとぼくは思った。
ここまで信頼されているいっちーを、ぼくは裏切ってはいけないと思った。絶対に面白いものにしてやると誓った。
かくして、ぼくの共演者集めが始まった。
インプロの第一人者・今井純氏のもとで、台本のない芝居のレッスンを毎週一緒に受けているメンバーに
「今学んでいることを、人前で、劇場でやりませんか?」と協力を仰ぐ文をグループラインへ投げた。
もし誰も興味を持ってくれなくても、それはそれでもう腹を括るしかないな、、、というぼくの想いは杞憂に終わった。多くのメンバーが興味がある旨を知らせてくれたのである。
24時間以内に「やりたい」と返事をくれた人には、能力や才能、生まれたところや皮膚や目の色で判別することなく、全員に出てもらうことにした。彼らの熱量に賭ける事にした。それ以上時間が経って返信をくれた人には、本当に人を楽しませられる覚悟があるかどうかを確認し、ポジティブな返事をくれた人に出てもらうことにした。
正直、ぼくを含めた全員が、台本のない芝居を人前でするレベルには物足りないプレイヤーであったが、
それでも「お客さんを楽しませる」という覚悟のもとにチャレンジしようとしてくれるメンバーが集まってくれた事が心強くあり、ありがたくもあった。
本番までに2日間確保できた稽古は、ぼくが指導する事にした。
今井純氏のもとで学んでいる人たちであり、もしぼくが氏と異なる指導をした場合、メンバーの不信感や苛立ちは募る事は明白であったものの、みんながチャレンジしてくれたように、ぼくもチャレンジしなければならないと考えた結果であった。
こうして臨んだ本番は、ぼくの当初の不安を裏切り、大盛況。
「本当に即興なんですか?」「面白かったです!また見たいです!」
というありがたいお言葉をいただいた。
しかし、ぼくが100%満足できたわけではないというのもまた事実である。
もっと感動させたい、笑わせたい、泣かせたい。もっともっとできるしやらなきゃ、という気持ちがモチベーションになる。
何はともあれ、終わった事に本当にホッとした。
この機会を作ってくれたいっちーに感謝を告げたいと思ったが、劇場内を見回しても彼の姿は見当たらない。
「今日いっちーは遅刻かな?」スタッフに確認すると、
「彼は今日仕事で来れませんよ」
との事。
・・・っておい!笑
そんなんで済むかよと思いながらも、いっちーへの怒りはクッキーの甘さに溶かされていった。
顔合わせの時に、ある人から「劇場で即興ができるってなった時にどうしてぼくたちに声をかけた?Tokyo Comedy Store:D(ぼくが卒業した団体)にお願いすればよかったのでは?」と問われた。彼の中では、Tokyo Comedy Store:Dという団体はハイクォリティの象徴的存在であるのだなと感じたぼくはこう答えた。
「:Dのようなライブをしたいのであれば:Dにお金を払って依頼している。:Dのメンバーが目指す方向とは違うものを創りたいからあなたたちに出演依頼をした」とぼくは答えた。
それを傍から聞いていた女性は、その時に「出演を決めてよかった」と思ったらしい。信念を持って突き進むことが誰かの気持ちを揺さぶるのだなと改めて感じたエピソードであった)
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2019.03.29 12:15