#54 虹のかけら芸術祭 (前編)
週末に行われた「虹のかけら芸術祭」に即興芝居枠として参加させていただいた。
そもそもの始まりは大学時代の友人、市川くん・通称いっちーの誘いであった。
「ひでともくん、一か月後に劇場を借りて芸術祭をやるんだけど、よかったらその一枠でインプロをやってくれないかな?」
という連絡をいただいたのだ。
いっちーとはここ10年ほどはまともに連絡を取り合ってはおらず、まずは詳細を聞かせて欲しいと思ったぼくは都内の喫茶店で彼に会うことにした。
学生時代の彼は、”THE 優しい人” というイメージであった。
例えるならば、「バファリンの半分は優しさでできていますが、もう半分は何でできていますか?」という問いに「いっちー」と答えてもおかしくないほどの優しさを持っていた。
さらに言うならば、
「ブブー!!違います。バファリンは全ていっちーでできています!」と正されても納得がいくほどの優しさの持ち主であった。
彼はいつも坊ちゃん刈りとおかっぱの中間のような長さの黒髪で、ぼくが投げかけるしょうもない冗談にも丸顔によく似合う笑顔で丁寧に返してくれた。大学時代の友人の9割の人が、4年間で1度はぼくに投げかけた「めんどくさい」という言葉を、いっちーは1度も言わないでいてくれた。ぼくの記憶が正しければ劇作(戯曲を書く)コースに在籍しており、ミュージカル研究会にも入っていた。
10年ぶりぐらいに会った彼は、少しふっくらとしており、かねてより丸かったお顔がさらに正円形に近くなっていた。
「ぼくがこの前一緒に仕事した女優さんがいるんだけど、ひでともくんも彼女の事は知ってるよね?彼女とひでともくんの二人で90分、即興でやってくれないかな?」
との事。
ぼくはその女優さんと同じワークショップを受けた経験があったものの、ここ2〜3年はお互いが何をしているかわからないほどの距離感となっていた。
芝居を人前で、お金と時間を頂いて行うというのは並大抵の事ではできない。
しかも即興で。本番は一ヶ月後。
稽古も何回できるかわからないうえに、ここ最近ご無沙汰している女優さんと二人きり。
不安要素は山積みである。
しかし旧友のお願いを無下に断ることはできない。
なんとか成立させる必要があると考えたぼくはいっちーに恐る恐る尋ねた。
「出演者の数って、二人じゃないとダメかな…?」
(続く…)
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2019.03.25 17:53