#50 ハイスクールのアレを終えて (中編)

1クラス2コマ × 4クラス で合計8コマ(全3日間)の授業であった。

実際にやってみるとアッという間であった。

最初は緊張気味だった高校生たちも、2グループ目、3グループ目と続くうちにどんどん羽目を外していけるようになっていった。


一番印象に残っているシーンがある。

カト先生の「じゃあ、次のグループは準備をしてください」という呼びかけに応じて出てきたのは、女子生徒6人組のグループ。

半円形に並べた机と椅子でこの場所が食堂であることを現しており、その食堂にはマスター(役)と3人のお客さん(役)がいた。

3人のお客さん役の女子生徒はまとまって座るのではなく、2人組と1人に分かれていた。

1人で椅子に座った女子生徒の元へ行き、「おれ、隣に座っていい?」と訊いた。

(ぼくはこの時、いつ何の役で出ようか決まっていなかった)

その女子生徒は言った。「いいですけど絡まないでくださいね。私コミュ障なんで。」

「え、コミュ障なの?」

「はい、コミュ障なんです。」

「コミュニケーション障害?」

「コミュニケーション障害。」

たったこれだけのやりとりだったが、ぼくは彼女とコミュニケーションを取ることが困難だとは全く思わなかった。非常にスムーズなやり取りができたからだろう。

カト先生の「それじゃ行きますよー!オープニングのBGM流しますからねー」という掛け声とともに、深夜食堂のBGMが流れてくる。

その曲が流れている間もぼくと彼女はお互いにだけ聞こえる声量で会話を続けた。

「兄弟は?」

「いません」

「一人っ子なんだ?」

「一人っ子です。」

他愛のない内容であるが、やり取りはしっかり。問題なく彼女とコミュニケーションを取れている事を感じたぼくは、BGMの音量が下がるタイミングで、声量を上げてこう仕掛けた。

「君、芸能界とか興味ないの?」

いきなりスカウトマンになったぼくからのセリフに面食らうこともなく、彼女との会話のやり取りは続いた。(最終的には彼女が放った「あなた胡散臭い」の一言が皆の笑いまで作った。)


結局、このグループの芝居が終わる10分間で、ぼくが彼女をコミュニケーション障害だと感じたことはただの一度もなかった。


人は皆、レッテルを貼りたがる。

あの人は優しい人。

あの人はうるさい人。

あの人は怖い人。


他人にレッテルを貼って生きていると自分にもレッテルを貼ってしまう。

わたしコミュ障だから。

わたしメンヘラだから。

自分不器用ですから。


レッテルを貼ると安心できるという気持ちも解る。

でもそれがもし自分の可能性を狭めているのだとしたら、ものすごく勿体ないことだと思う。

コミュ障なんかじゃないかもしれない。

本当は誰よりも上手に人の話を聞いているかもしれない。

本当は誰よりも的を射る一言を言えるかもしれない。


自分の可能性を決めて縮こまらずに

とことん自分の限界に挑戦してほしい。

これは当然、自分自身への戒めの言葉でもある。

続く

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日本のインプロバイザー・長澤英知の公式HP。 インプロ / 俳優 / MC / ナレーターなどの活動を行う。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • 足湯の人

    2019.03.16 13:53

    そしてこの教室の写真、いい〜
  • 足湯の人

    2019.03.16 13:52

    自分で領域狭めてるってこと自体、自分じゃ気づきにくいのよね。 定期的に振りかえるの大事ね。