#15 人の優しさ(後編)

(#14の続き。。。)

「住所教えて」とメッセージを送ってきたのは、高校生の頃の同級生だった。

彼女は結婚後、旦那さんの仕事か何かの都合でシンガポールへ行っており、ここ10年はまともに連絡も取っておらず、久しぶりの急な連絡に困惑と狼狽は不可避であった。いつシンガポールから戻ってきたのかもぼくは知らなかった。

学生の頃の彼女は目が少女漫画のように大きく、「出目金」という非常に不名誉なあだ名を付けられていた。しかし明朗快活で人当たりの良い部分が、性別問わず多くの友人から慕われていた。晩年の方では「出目金はさ〜」と一人称をあだ名にしているほどの度量の広さを見せ、同じ出目族のぼくとしては非常に好感を持っていた事を覚えている。

そんな彼女が、ぼくが体調を崩している事をSNSで知り、心配して連絡してきてくれたのであった。

住所を教える事に抵抗はないが、わざわざウチまで来てくれる彼女をどうやってもてなせるだろう。先日 引き出物で貰ったコーヒーとハムで凌げるか?ミスマッチか?そもそもシンガポールで数年間過ごした彼女に俺のトークは通用するだろうか…。導入はマーライオン、その後ゴミ罰金の話に展開して、最後は米朝トップ会談の話で〆か…?

…いや、だめだ。体調が悪すぎる。あと、トップ会談の話も詳しくは知らない。今日はお引き取り願おう。

住所を教えた後、「今は充分なおもてなしができないから家に来ないでほしい」という旨をどう伝えようと思っていた矢先、彼女からメッセージが届いた。

「明日、イトーヨーカドーネットスーパー届くから。」

ネットで注文したものが指定の住所と時間に届くという素晴らしいサービスで、彼女がぼくを救おうとしてくれているのを理解するのに時間を要した。


おお、神よ!!!!
ぼくは彼女と神に感謝した。いや、彼女を神としていた。
他の神々より目が大きい女神がいたっていいじゃないか。
スカートが短いことを指摘してきた教員に「何あいつ?マジうぜー」と舌打ち混じりに言ってしまう女神がいないとどうして言い切れる?
その時のぼくは間違い無く、彼女にぶたれたら喜んで反対側の頬を差し出すほどの出目教の信者になっていた。


翌日届いた大きいダンボールの中には、ポカリスエットなどの定番のものからウィダーインゼリーなどの胃に優しいものまで、ギッッッッシリと詰められていた。

すぐに彼女にメッセージを送るぼく。


「ありがとう!本当にありがとう!!何かお返しできることはあるかな?」
「いいよ、全然気にしないで!お金だけはあるから!」


格差社会の片鱗を見た気がしたが、あまり深く考えずにぼくはポカリを飲んだ。

少し涙の味がしたかもしれない。

Hit The Spot

日本のインプロバイザー・長澤英知の公式HP。 インプロ / 俳優 / MC / ナレーターなどの活動を行う。

0コメント

  • 1000 / 1000