#14 人の優しさ
インフルエンザが今なお衰える事なく流行っている。
今年の感染力は従来の2倍である事や、ワクチンを無効化する事、一度罹った人でももう一度罹る可能性がある事などから、渋谷のギャル風に言うと「マジやばくね??」な脅威と不安が日本列島を駆け巡っている。
かくいうぼくも年始に、極めてインフルに近い症状に苦しめられていた。
寒気や吐き気、関節の痛みや頭痛など、インフル診断のチェック項目には全てレ点が付いてもおかしくないほどの状態であった。
掛け布団に少しでも隙間があればそこから入り込んでくる隙間風に西野カナばりに震え、その隙間を埋めようと身体を動かす度に関節の痛みがタイガージェットシン顔負けの容赦の無さでぼくを襲った。カナとタイガーからの夢のコラボレーションリンチにぼくはまともに抵抗する事もままならず、ただただひたすらボッコボコのサンドバック状態でいることしかできなかった。
ぼくには病院へ行けない理由があった。
それは少し特殊な頭痛である。
ぼくは普段から薬の服用や通院をあまり好んでおらず、多少の体調不良なども家で寝て治すのだが、そのぼくが今回は珍しく弱音を吐き病院へ行きたがった。にも関わらず行けなかったのがこの頭痛のせいである。
床に臥せっている状態から身体を起こすと、鈍い痛みがぼくのこめかみを襲う。タチの悪いことに、その痛みは頭(頭蓋骨)が床(地面)から取る距離に比例していた。つまり、寝ている状態が一番楽な状態であり、頭蓋骨の位置が床から遠くなれば遠くなるほど痛みは増していくのだ。
「病院へ行ったほうがいいのだろうか」と思った時にはすでに手遅れで、背筋を伸ばして立ち上がる事は痛みの為に困難であり、トイレへ行く時は腰を曲げ頭蓋骨の位置をできる限り低くし、小平奈緒選手と全く同じシルエットで向かっていた。
タクシーでなら、病院へ行けないことも無いのだろうか…
頭をできるだけできるだけ低くしていけば可能かもしれない…
でももし病院がマンションの8階とかだったらどうする…
金メダルを獲得した小平スタイルでもタワーマンションの海抜の高さの前には無力である。ぼくはこの頭痛に屈し、病院へ行く道を閉ざされた。
今回痛感した事であるが、一人暮らしをしている人が体調を崩すと死活問題である。
買い物も行けねぇ。食料の調達もできねぇ。
病院も行けねぇ。車もそれほど走ってねぇ。
いよいよヤバイ。
本当にヤバイ。
「これマジ棺桶コースなんですけど…」
ぼくのスマホが鳴り、あるメッセージが届いたことを報せた。
#15へ続く。。。
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