#80 友よ
大学の後輩である友人の結婚式へ行ってきた。
相手の新婦もまた、大学時代の後輩であった。
式の二週間前、ぼくは都内の喫茶店に新婚の二人から呼び出された。
後輩「二週間後の式で、ひでさんにお願いしたいことがあるんです。実は、僕たち二人の馴れ初めを喋って欲しくて。」
長澤「え、なんでおれなの? 当日は司会の人もいるんでしょ?」
後輩「そうなんですけど、馴れ初めはどうしても来賓の方々に聞いて欲しいので、絶対にひでさんにお願いしたいんです。」
一生に一度の二人のビッグイベントの成功にぼくの力が微力でも役に立つのであればと思いぼくは「わかった、いいよ」と応じる。司会の方に想いを馳せるとちょっぴり切なくなったものの、優越感の方がわずかに上回った。
後輩「ありがとうございます!じゃあこれから僕たちが付き合ってきた12年間の話をさせていただきますね!」
な、長ぇ!!!
12年間も付き合ってたの!!
それの馴れ初めって!!20分ぐらいの長編ストーリー作れってこと!?
この日、ぼくは体調が芳しくなかったものの、目を爛々と輝かせる彼らを見ると「後日にしてくんない?」とは口が裂けても言えなかった。「12年、長くね?」はギリギリ言えた。
二人が出会った時のお互いの第一印象から現在までを詳かに聞いていく。二人同時に話を聞いてしまうと「あの時、こうじゃなかった?」「いや、こうだったよ」などと記憶を補正されながら話されるので、ヒアリングを行うのは片方ずつだ。この時の、同じ出来事に対する双方の記憶の違いや、見方の違いなどが面白い。
気になる点は掘り下げながら、その時どんな気持ちだったのかという事なども確認していき、なんとなく二人のストーリーが見えてくる。
90分後、二人からのヒアリングを終えた。心地よい疲れの中、ぼくは頭の中で整理した。
(ふむ・・・。12年は長いと思ったけど、聞く人の心が揺さぶられるようなエピソードもいくつかあるし、なんとか成立させられそうだな。あー良かった。安心した。今日はもう帰って寝よう)
緊張感が切れたぼくの心を知ってか知らずか、後輩はこう告げてきた。
後輩「当日は3分でお願いします!」
長澤「・・・え、なに?」
後輩「馴れ初め話す時間、3分間しか取れてなくて!へへ!よろしくお願いします!」
12年間の二人の馴れ初めを3分で話せというのである。
「本来、1時間は間違いなくかかるはずであろう料理を、
『・・・で、この工程を全部終えたのがこちら(バーン!!)』
という形で工程をスキップしまくり、無理やり3分間に収めているクッキング番組、ありますよね?要はあんな感じっす!ヒデさんならいけるっす!」ぐらいの勢いであった。
悪かった体調はさらに悪くなり、ぼくは3分間クッキングの動画を夜通し見続けた。
そして当日。
即興で人前に立つことはできるのに、やることが予め決められていると緊張をしてしまう。
ぼくは出番が来るまで、自分の眼の前に置かれた白身魚のテリーヌを食べることができなかった。
(消化に良い食べ物ランキング、おかゆに次いで第2位の、あの白身魚のテリーヌを。。。)
式は新郎新婦の人徳もあり、盛大に盛り上がった。
ぼくもその盛り上がりの一端を担えたと思う。3分で収める事は出来ず、結局10分間ぐらい話していた。タイムキーパーみたいな人が苦虫を噛み潰しているのを見えないふりをした。白身魚のテリーヌは席に戻ったと同時に一瞬で平らげた。
大学で出会い、親友同士になった二人。
親友であり続けながらも、恋人にもなることを選んだ二人。
付き合い始めるまで、すれ違いを続けた二人。
これからも末長くお幸せに。
二人ともおめでとう。
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