#79 真打
幼い頃、故郷・熊本へ落語家が来た。
ぼくは親に連れられ、市民ホールの二階席の最前列からその姿を見た。
その噺家さんの名前はもう覚えていないが、一人で60分ぐらいやっていた記憶があるので、相当に名の通った方だったのだと思う。
幕が上がってから少しずつ増えて行く客席での笑いの量が終盤では爆発し、人情ドラマを織り交ぜ温かみをも感じさせられる話芸。
幼心に「噺家さんってすごいんだな」と感じたのを覚えている。
それ以来、ぼくは落語に少しだけ興味を持っていた。ぼくの愛フォンには幾つか落語の演目が入っている。故・三遊亭円楽さんが大好きだ(というか他にあまり知らない)。
そして先日、ずっと前から気になっていた、新宿・末広亭へ行った。
いろいろな落語家が観られる寄席の形だ。
「真打」が幾人も出るということで、相当楽しみにしていたのだが、結果は少し残念な気持ちになってしまった。
”先生” や "社長" にもいい奴や嫌な奴がいる様に、"真打" にもピンキリがあったのである。
物サービスと異なり、表現の世界ではお客さんは、これから見られる "きっと凄いもの" への期待にお金を支払う。それを裏切ってはあかんな、と反面教師的な経験を得られた。自戒。
がっかりさを打ち消すべくアホみたいにやけ食いしたミルクレープの方が、納得のいく対価を得られた。
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2019.05.22 23:55