#69 母子
休日のみなとみらい。
人混みが大嫌いなぼくが、混雑に揉まれ疲弊するのを覚悟で行ったのは、母になった旧友に会うためだ。
大学時代の友人である彼女は、当時、恋愛がたいそう下手であった。「男運が無いんだよあたしゃあ」と言いながらお酒に溺れてしまう事もあった。演歌の登場人物より演歌してた。
「イケメンが好き」と公言しながらもイケメンに愛される事はなく、失恋するごとに呑むお酒の量が増え、しまいには「ヤバイ…あたし、将来絶対結婚できない気がする…幸せになれない気がする…」と弱音を漏らしていた。お酒+傷心という事で、もしぼくの下半身が彼女に反応していればいとも簡単に抱けたであろう。しかしぼくの下半身はどこまでも正直であった(大学卒業後、タイミングがあって「あの時は抱けなくてごめん」と冗談めかして彼女に謝った事がある。「なにそれ酷ーい」と笑いながら反応するであろうというぼくの予想を裏切り、「ヒデちゃんとは絶対に寝なかったよ」と真顔で返してきた。ぼくはその日、焼酎を涙割で呑んだ)。
久しぶりに会った彼女は母親の顔をしており、彼女の娘は端正な顔立ちであった。この子が生まれてくれた事で、ぼくの友人はまた一つ幸せになれた。まったくの部外者であるにもかかわらず、ぼくは赤ん坊に「ありがとう」と言いそうになったがなんとか我慢した。(言ったらきっと夜泣きがひどくなっていた)
諸行無常。「今」は永遠に続かない。
友人であった彼女は母になり、赤ん坊である娘が大人になっていく。
このブログを書いている間もぼくは(みんなも)少しずつ死へ向かっている。終わりは必ず訪れるからこそ、一瞬一瞬を大切に生きていかなければならないのだと改めて強く感じた。
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