#12 『リクドウ』

行きつけのTSUTAYAから電話がかかってくる。
「長澤様でいらっしゃいますか?
借りられているコミック2冊が、3日間返却期限を延長されていますので、そのご連絡です。」

NetflixやAmazonプライムの会員が世界中に跋扈している現代でも、ぼくは未だに足を使ってTSUTAYAまで映画や漫画を借りに行くほどのアナログ人間である。

文明の発達度合いで言うと、原始人とニアリーイコールかもしれない。

原始時代を専門とする学者は原始人と長澤の差異についてこう語る。

「全裸を恥ずかしいと思わないのが原始人であり、全裸を恥ずかしいと思いつつもちょっぴり人に見てもらいたい欲求を抱いているのが長澤です。」


ぼくが返却の催促を受けたのは『リクドウ』というボクシング漫画だ。

「暗いよ」と友人に勧められて読み始めたが、なるほど確かに第1話は気が滅入るストーリーであった。主人公のリクは幼少期、父親の自殺や母親の麻薬中毒などの中で生まれ育つ。しかし、ボクシングとそれを教えてくれた人達を通して生きることの希望の光を見出す、という救いの見え隠れする話しだ。対戦相手の人生や背景も丁寧に描かれていて、試合の時には「どちらにも負けてほしくない」と思いながら読める珍しい漫画である。


この作品、すでに19巻まで出ているらしいのだがぼくの行きつけのTSUTAYAには4巻までしかない(つまりぼくもまだ4巻までしか読んでいない)。人気がないのだろうか。それとも森川ジョージ先生の圧力なのだろうか。「主人公のパンチの打ち方なんだけど、ちょっとデンプシーロールに似てない?パクリ」とイチャモンをつけられたのだろうか。

逆に考えると、なぜ4巻までは店棚に置かれる事を許可されているのだろうか。梶原一騎先生が4巻までを大絶賛しているのだろうか。「5巻以降は読む必要ないほどクソだけど、4巻までは文句のつけようがなく最高に面白いね。この主人公、矢吹丈の次に強いね!」と太鼓判を押したのだろうか。

謎は深まるばかりだ。

そしてこの謎は店棚に全19巻のリクドウが並ぶ事でしか解決され得ない。

そう、ぼくがコミックを3日延長したのは「5巻以上もはやく店棚に並べてくれ」という全国のTSUTAYAに向けたメッセージであった。

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日本のインプロバイザー・長澤英知の公式HP。 インプロ / 俳優 / MC / ナレーターなどの活動を行う。

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